非居住経営者のための日本支店設立・事業開始フロー
日本支店は、海外法人そのものが日本で事業を行う延長線に位置づけられる進出形態です。新たに日本法人を設立するのではなく、本社と法的に一体のまま日本に拠点を持てる点が最大の特徴です。一方で、独立した日本法人ではないため、税務・会計上の本社との切り分け管理や、日本における代表者の設計が実務上のカギになります。本記事では、支店方式の適否判断から営業開始まで、7つの段階に整理しています。
日本支店が向いているケース
日本支店は、海外本社主体のまま日本で活動したい場合に向いています。子会社設立より設計がシンプルな反面、本社が直接責任を負う構造になる点に注意が必要です。
長所と短所を整理する
日本支店を選択する前に、株式会社・合同会社との違いを含めて長所と短所を確認しておきましょう。
長所
- 日本法人を新たに作らずに進出できる
- 本社と法的に一体のまま活動できる
- 親会社100%子会社設立より説明がシンプルな場合がある
- グループ内ガバナンスを本社主導にしやすい
短所
- 日本での「独立法人」ではないため取引先や銀行に説明が必要なことがある
- 許認可や契約で扱いが複雑になる場合がある
- 税務・会計上、本社との切り分け管理が重要になる
- 本社が日本での事業上の責任を直接負う構造になりやすい
第1段階から第7段階まで
各段階で必要な準備と、日本支店特有の確認ポイントを整理しています。
支店方式が適切か検討する
まず、日本進出の形態として支店方式が本当に適切かを確認します。支店は本社と一体である分、独立した日本法人に比べて制約がある場面もあるため、事業の目的・規模・将来の展望と照らし合わせて判断します。
事前に確認すべきポイント
- 契約主体を本社のままにしたいか
- 日本側に独立した資本政策が不要か
- 日本での採用・許認可・銀行対応に支障がないか
- 将来的に子会社化する可能性があるか
- 税務上の切り分けが可能か
本社側での意思決定
日本支店の設立は、海外法人本社の内部決定事項です。株主総会・取締役会等、本国の会社法上の手続きに従い、正式に承認を得る必要があります。
本社側で決定する事項
- 日本支店設置の承認
- 日本支店所在地
- 日本における代表者
- 支店の業務範囲
- 日本側予算
- 権限委譲の範囲
- 送金方針
- 会計方針
- 本国の会社法に基づく支店設置決議の形式を確認する
- 本社代表者と日本代表者が異なる場合の権限範囲を明確にする
- 日本への資金送金の方針(費用付け替えか、本社立替か)を決める
- 本社の会計基準と日本側の税務処理の整合性を確認する
日本側の体制整備
登記前に、日本で実際に活動できる体制を整えます。特に「日本における代表者」の設計は、支店の実務運営において最も重要な要素のひとつです。
整備する項目
- 日本における代表者の選任
- オフィス確保
- 郵便受領体制
- 日本語対応窓口
- 税理士・司法書士等の専門家選任
- 必要に応じた人材採用
支店の実務において、日本における代表者の存在は特に重要です。日本に居住している人物を代表者に選任することが必要で、その代表者が銀行手続き・契約・税務申告・許認可など、日本国内のほぼすべての実務上の責任者となります。非居住者が代表者になることは認められていない点に注意が必要です。
必要書類の整備
日本支店の登記には、海外法人に関する各種証明資料が必要です。これらの取得と翻訳・認証には時間がかかる場合があるため、早めに準備を開始することが重要です。
主な必要書類
- 本国での登記証明書
- 定款・会社規程等
- 代表者資格証明
- 日本支店設置決議書
- 日本代表者の選任資料
- 認証・アポスティーユ資料(必要な場合)
- 翻訳文
支店登記(法務局)
日本の法務局で、外国会社の日本支店として登記を行います。日本法人の設立登記とは異なる手続きです。この申請日が日本支店の「設立日」となります。
登記される主な事項
- 本国法人の情報(商号・所在地・代表者 等)
- 日本支店所在地
- 日本における代表者氏名・住所
- 公告方法
登記後に取得するもの
- 履歴事項全部証明書
- 印鑑証明書
- 法人番号
支店開設後の実務整備
登記完了後、実際に営業を開始するための各種手続きを進めます。税務届出の期限に注意が必要です。
必要な手続き
- 銀行口座申請
- 税務届出(外国法人の事業開始届 等)
- 必要な許認可申請(該当する場合)
- 会計処理体制の整備(本社との切り分けルール)
- 労務体制の整備(社会保険・労働保険 等)
- 契約書雛形の整備
- 税務上、日本支店は「恒久的施設(PE)」として扱われ、日本国内源泉の所得に課税される
- 本社と支店間の費用配分・内部取引には移転価格の観点が必要になる場合がある
- 外国法人の法人税申告は、日本法人とは申告形式が一部異なる
- 社会保険・雇用保険は日本の従業員を雇う場合に適用される
営業開始・継続運営
準備が整ったら営業を開始します。日本支店名義または本社名義での契約や請求など、契約主体の設計を事前に固めておくことが重要です。
継続的に必要な対応
- 日本支店名義または本社名義での契約・請求・入金
- 本社との資金精算(経費付け替え・内部取引の記録)
- 月次会計・試算表の確認
- 税務申告(外国法人の法人税・消費税 等)
- 支店運営報告(本社への定期レポート)
株式会社・合同会社・日本支店、何が違うか
日本進出の形態は、事業の目的・規模・将来の展望によって最適解が変わります。主な観点で3形態を比較しています。
主な比較(非居住者・外資関与の視点)
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 | 日本支店 |
|---|---|---|---|
| 法的位置づけ | 独立した日本法人 | 独立した日本法人 | 海外本社と法的に一体 |
| 設立登録免許税 | 15万円〜 | 6万円〜 | 9万円 |
| 定款認証 | 必要 | 不要 | 不要(本社書類の認証が必要) |
| 契約主体 | 日本法人 | 日本法人 | 海外本社(または支店) |
| 日本における代表者 | 取締役(代表取締役) | 代表社員 | 日本における代表者(日本居住必須) |
| 対外的な信用 | 高い | やや低い場合あり | 本社ブランド依存 |
| 税務上の扱い | 独立した納税主体 | 独立した納税主体 | PE(恒久的施設)として課税 |
| 将来の子会社化 | — | 株式会社へ変更可 | 新たに法人設立が必要 |
日本支店が選ばれやすいビジネスのパターン
以下のようなケースでは、日本支店方式が適している場合があります。


